飲みやすいワインの否定から始めてみる
ソムリエとしてレストランに立っている時も、ワインショップのカヴィストとしてワインをおすすめする時も、多くのお客様のワインの好みについてお伺いする事になります。その中で「飲みやすいワインでお願いします」ってリクエストが来る事が多いのですが、この「飲みやすい」という表現を聞くと、僕のソムリエのお仕事のスイッチが入ります。
ざっくりと言って、お客様にワインを選び、美味しいと言って頂く事がソムリエとしての目標達成とするならば、世界で一番美味しいワインだけをお勧めしていればいいのですが、そうもいきません。もちろん予算的な事もあるかと思いますが、一番の問題はお客様ごとにワインの好みが違うという事です。むしろこれは、好みが違うと言うか【好みの表現の仕方が違う】と言った方が良いかもしれません。
初めてワインを選ばせて頂く方に、直接的にワインの好みを聞いても意味を持ちません。Aというワインを、ある方は甘いと言い、別の方は辛いと言うなんて事はよくある話で、重たい軽いなんて基準も個人個人で違います。なのでソムリエは、なるべくお客様がどういった基準でワインを評価しているのかが知りたいのです。対峙する言葉の端々からそれらを探って行く為にに会話を進める中で、「ワインは好きなんだけど、自分の好みが良く分からない」という方もたくさんいらっしゃいますが、そういった方のワインの好みは「飲みやすいワイン」である事も多い様に感じます。
以前、オーストラリア人の熱血マスター オブ ワインにワインを教わっていた時に、彼は良く怒っていました。「日本人はなんで飲みやすいって表現をするの?ワインが可哀そうだよ!だって、食べやすい食べものなんて誰も食べたくないでしょ?離乳食じゃないんだから、飲みやすいなんて言っちゃだめだよ!」って。
僕はそこまで激しくは感じていませんが、まあ、概ね同じ意見ではあります。そこで、お客様ごとの「飲みやすい」が何なのかを考えてみたいと思います。
飲みやすいという感覚はどうやって生まれるのか
ワインを飲む時に何をもって「飲みやすい」と感じているかという事を考えてみると、真っ先に思い当たるのが酸味です。苦手なワインのタイプを聞くと「酸っぱいワインは苦手」という方が多いので。「酸味があると飲みにくい」これは言葉としてはしっくりしますが、一方で酸味の無いワインもまた甘すぎて飲みにくいものになってしまいます。酸と果実味の関係は適度にバランスが取れていて相殺される関係で有る事が求められます。ソムリエ的な人が「このワインはバランスが取れている」なんて言う時に、見ているのは概ねそこのバランスです。これが個人個人の好みのタイプとずれると「私の好みに合わない」という判断に直結します。
結論としては、お客様はワインの味(酸と果実味)やボリューム(アルコール度数)の具合が「好き」だったり「ちょうど良い」時に「飲みやすい」という表現を使っている様です。
しかし、ワインを楽しむうえでポジティヴな表現として捉えていたはずの「飲みやすい」という表現が、自分のワインの好みを見つけるという事に関しては足かせになってしまい、かえって遠回りになってしまっているなんてケースを良く見かけます。
個人の目線として、いくつか見つけた好みのタイプの全てを表現している様でいて、実はそれはワインの形容としては何も表現していないのです。「飲みやすい」を共通項としないで、もう一歩踏み込んでみて、自分の好みの共通項が見つけ言葉に出来た時、きっと「飲みやすい」という表現は必要が無くなるのではないでしょうか。
逆に、どこかのタイミングで「私の好きなワインのタイプは〇〇か△△だ」とある程度の目安というか、仮説を立てる方がいます。そういった方へおすすめする時は、その方の個人の解釈を探ればよいので好みを把握するのは比較的容易で、趣向と異なったワインを口にしても根底にあるベースさえ押さえておけば「好みのタイプではないけど、これはこれで素晴らしい」という結論になったりもします。
ワインの好みがワインのタイプや産地ではなく特定の銘柄だった場合などは、何をおすすめしてもそのハードルを越えられないなんて事も良くあります。そんな時は「そのワインと比べてしまってはワインが可哀そうです、ワインにはそれぞれ個性が有るので、このワインの良い所を見つけてあげてください」などと、感情的に訴えてみたりもします。
感情論や中途半端なやりとりでは事足りず、なんとかしてお客様の好みを知りたい時に、僕は「ふだん良く飲まれるのはどこの国のワインですか?」と聞く事が有ります。
漠然とした好みに隠されたキーワードを探る事で、個人個人異なる「飲みやすいワイン」をおすすめする事が可能になるからです。
例えばそこで、チリワインやカリフォルニアのワインなどをお答えになる方はきっと酸味が苦手な方で、フランスとお答えの方は酸のあるワインに慣れている可能性もあるかなと。一概には言えませんが、まあざっくりと。イタリアは色々ありますので更に深掘りしますし、ドイツはバランスが重要だったりします。オーストラリア、オーストリアやジョージアが大好きなんて方は、トレンドに敏感なのかなとか。国の名前の先にある、ワインの好みを考える様にしています。
「飲みにくさ」について考えてみる
漠然と、飲みやすいワインは個人的に好きなタイプを指すのだという事にはなりましたが、経験上それだけではお客様にはご満足いただけません。より楽しくワインを感じて頂ける様に、飲みやすさの対にある飲みにくさについて考えてみます。
飲みにくさに関しては、吉澤ワイン商店で重視しているワインの劣化も大きな要素です。ワインはウイスキーなどに比べてアルコール度数が低いので、環境の変化に弱い飲み物です。紫外線に当たれば、蒸れたような鼻につく香りがしますし、熱を浴びると酸味を伴う妙な香りが出てきてしまったりします。最近流行っている「自然派ワイン」と呼ばれるカテゴリーのワインには、あらかじめ過度に酸化させていたり、酸素を遮断して発酵させて還元臭という酵母の悲鳴のような香りがするもの、マメと呼ばれる謎の香りがする場合もあります。それらは総じて(僕には)飲みにくいのですが、これまた嗜好は個人個人で違いますので、それを「美味しい!」なんて事だってありますから、ワインってほんとに難しいです。
他に、「飲みにくい要素」としては温度も関係してきます。赤は室温、白は冷蔵庫なんてよく言いましたが、ワインにはワインごとの適温が有るなんて事をここ数年で良く目にします。タイプによって、最大限に味わいが引き出される温度はもちろんありますが、グラスの形状なんかでも感じ方は変わりますし、一番のポイントは温度を間違えるとワインの劣化した要素が強調されてしまったりする事でしょうか。劣化した、好きでもないワインをぬるい状態で飲む……想像しただけで飲みにくくってたまりません。状態の良いバランスの取れたワインは、たとえば白ワインだって室温でも美味しいものです。
あとは、誰と飲むかとか、誰に勧められたとか。気分が高揚している時には、何を口にしたって美味しいと感じるでしょうし、その反対の時にどうなるかって事は皆さんも良くご存じだと思います。
最後にワインのおすすめを
さて。結論としては「飲みにくい」の逆説から導いた「飲みやすいワイン」への近道は、
①好きな国の酸のタイプに近いワイン
②ワインの保管状態が良いワイン
③嫌いな人以外と飲むワイン
と、なりましすでしょうか。①と②のワインで宜しければ、吉澤ワイン商店にもご用意がございます。以下、ご参考にして頂けましたら幸いです。
今後も美味しワインを見つけてはご紹介できればと思っております。よろしくお願い致します。
店主 吉澤和雄
普段フランスのワインを飲む方におすすめ
⇒https://chaiyoshizawa.com/category/item/origin/france/
吉澤ワイン商店でお勧めしているワインはフランスが中心です。フランスらしさを感じるワインのセレクトを心がけています。
普段アメリカ、チリのワインを飲む方におおすすめ
⇒https://chaiyoshizawa.com/category/item/origin/usa/
アメリカのワインはまだ少ないですが、その分選んで入れています。オーストラリアのシラーズやローヌの赤なんかは通じるものがあると思います。
その他の国のワインが好きな方におすすめ
「好みから探す」というページが有ります。複数チェックして検索もできます。
⇒https://chaiyoshizawa.com/searchpage/
もしくは、ページ右上の虫眼鏡の所からフリーワード検索が可能です。葡萄品種などを入れて検索すると、お目当てのワインにたどり着けるかもしれません。是非是非。
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